『言語生成以前の世界に浮かぶ島、ヘロン』

kemurin012007-03-06


小学生の頃、星空の夜のなか犬の散歩をしながら思ったものだ。この懐中電灯を宇宙に向けて手を振れば、光の先端のスイングスピードは光速に限りなく近くなるんじゃないかと。実際にはそんな彼方まで届くような強い光は手に入らなかったけど、なんだかそんな問いかけが星空ととても親和的な気がして、僕は歩きながら何度も右手を振った。そんなとき満天の夜空の全ては、僕の小さな胸にもらさず張り付いていた。

ヘロンはそんな「時無き瞬間」に戻れる島だった。天空にはプラネタリウムより沢山の星が瞬き、南十字星はもちろん、スバルさえも簡単に見つけられた。オリオン座を形取る空間の中に、あれほど沢山の小さな星が輝いてるなんて僕は知らなかった。また、珊瑚と貝殻が砕けて出来た砂は何処までも白く、そしてそれを掬った僕の指の間を優しく流れた。青き海はインクルージョンのないパライバトルマリンのような色彩と輝きで、大粒の宝石がそうであるように、何時までも僕らの目を離さなかった。深夜から夜明けには何頭もの母ガメが産卵に訪れ、信じられないだろうけど、僕らのベッドの10メートル先にも砂を掘り続ける音が1時間以上聞こえ続けた。夕方は小ガメ誕生の瞬間。日が傾き砂の表面温度が下がると突如その集団全力疾走は始まる。百匹を超える直径五センチの小さな生命体は、三日間掛けて地下50センチから表面に浮上し、トンネルが地表に達すると暫し眠りながら力を蓄える。そして時が来てある一匹が走り出した刹那、全ユニットにその指令は電撃的に下され、一斉に全力で海に向けて走り出すのだ。浅瀬で彼らを待つリーフシャークやカモメの襲撃からひとりでも多くのものが助かるように。次から次へと穴から這い上がってくるミニチュア達。教えられてもいないのに彼らが確実に海に向かい、泳ぎ、必死に息継ぎをしながら旅立つのを見て、記憶の蓄積の前に仕掛けられている生命の機械性=本能の凄さに、僕は強く打たれた。

此処は、言語が生成される以前の世界に浮かぶ島だ。全てが前駆的であり、かと思えば、既に全てが融合的なのだ。

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エントリーの日にちを遡って何枚か写真をアップしておきます。ささやかな「お裾分け」といったところ。2/24から今日まで1日一枚ずつ簡単な解説のみで貼り付けておきますので、良かったら画面をスクロールしてご覧ください。(今日の写真は、全力疾走で波打ち際に到着する小ガメ。かわいすぎ!)