早く大金持ちになって彼女のDVDを私費でもう一枚作るのが俺様の夢です

俺様にとって衝撃的なニュースが舞い込んだ。ロイヤルバレエのプリンシパル吉田都がロイヤルを辞め熊川のKカンパニーに移籍!読売新聞の当該記事を読んだ俺様はポリフォニックな感情に胸を貫かれた。簡単に消化できない複合的感情の襲来。MIYAKOはロンドンで見る特別なもの、という取って置き感を持っていた俺様は、最初はネガティブにそのニュースを受け取り、そして少しずつポジティブに解きほぐす、そんな心情的変化を感じた。

吉田都と俺様の出逢いは実に運命的だった。1年半前のニューヨーク滞在時、年末に見たニューヨークシティバレエの「クルミ割り人形」に感動し、あの感動をもう一度ということでタイムズスクエアのヴァージンレコードで適当に3種類買った「クルミ割り人形」のDVDの内の一枚に偶然主役で出演していて、最初は「ちぇっ、なんだ日本人かよ」とがっかりしたものの直ぐにその奇跡的な踊りに大ファンになってしまったというもの。そして五ヶ月のニューヨーク滞在を四ヶ月半に切り上げ、成田経由でワイフをピックアップ後、地球を約三分の二周してロンドンのロイヤルバレエに彼女の出演する全幕物「ラ・フィーユ・マル・ガルデ」を見に行ったのが2005年の3月。ロイヤルの幕が上がり彼女が出てきたときには、距離的なプロセスの長さから人間の主体的意志の大いなる可能性を、またあらゆる偶然の連続が自分を確かに此処に導いたのだと「一切による客体的包み込みの不思議さ」を同時に感じ、その両極端の同時存在性が俺の身体を強く痺れさせたことを今でも覚えている。

当たり前の事だけれど、ロンドンのオーディエンスの方が芸術に対する理解が深い。そして今年も含めて三回MIYAKOのバレエを当地で見たけれど、彼女の人気は日本人の想像を遙かに超えて未だ絶大だ。当然、共演者、衣装、舞台設定も、ロイヤルと日本のバレエ団では格段の差がある。それでも帰ってくる。その理由に想像を深めるたびに俺様のネガティブな感情は軽くなり、その重い決断を尊重できるようになってきた。

MIYAKOはもうすぐ、我々にとって身近なものになる。だけどもちろん、この世界に存在する全てのプレシャスなものと同じように、目の前に置かれていたとしても手を伸ばさなければ自分の中には入らない。俺様はこの機会を最大限に生かし、彼女の数年間を全力で見つめ続けるつもりだ。12時間のフライトの先にある、多くのイギリス人の羨望を確かに背中に感じながら。