18th/july/2006 NYC-day16

この日はちょっとやり過ぎなくらいに活動した。おかげで家に帰ったら完全に力尽きてエントリーを一日遅らせてしまった。後でもう1日分投稿して早急にダイヤを回復させなければならない。

朝は7時半に起きた。健康的な起床のようだが睡眠は三時間しか取れていない。実はニューヨークに来てからの二週間以上、昼過ぎから夕方に掛けていつも強烈に眠くなり4〜5時間の睡眠をとり続けている。時差が合っていないというのもあるし、こちら時間で深夜2時に終わる東京マーケットではあるがその最中に脳を回転させすぎるせいか、相場が終わっても回転が収まらず二時間ほど眠れないためにどうしても睡眠不足になってしまう。そういう状況下の中、今日は朝起きて二時間くらいニュースをチェックしたり文章を書いたりした後、計画通り9時半にアパートメントを出発し、エクセサイズを兼ねた散歩に出かけた。「計画通り」というのは、メトロポリタン美術館のななめ向かいにある美術館、「フリック・コレクション」を朝の散歩のなかに組み込んでしまおうと考えていたからだ。アパートメントからは40ブロック、約4キロの道のりだから、9時半に出れば10時の開館に合わせてちょうど良いだろうと計算した。そしてその後に昼食をとれば完璧だと。道中はたっぷりとした距離だったが、距離的な負荷は全く感じなかった。靴はモンベルのシティジョガー、足への負担をさらに少なくするためトレッキング用の分厚い靴下もはいた。下はさらさらとした質感のジャージ、シャツはこれまたモンベルの新素材&立体裁断シャツをチョイスしたから肩の動きに対するストレスはないし、どれだけ汗をかいても不快感とは無縁だ。さらには腕にプロトレック1000をはめ、所要時間を計測。つまり軽登山でも全く問題のないほどに完璧な、「歩き」のための完全装備なのだ。腰下がすべてゴムで出来ているかのようなラバーなグリップ感でみるみる間に30ブロック進み、左手にセントラルパークの景色が流れだす。アスファルトからの硬質な反射とは打って変わって、臼で碾(ひ)いたような柔らかな光が左から右へと流れていく。まるで暖かな日の春風のながれ。ふと、正確な住所を頭に入れるのを忘れてきてしまった、と思った瞬間、右側に白亜の邸宅が現れた。THE FRICK COLLECTION。邸宅は威厳を湛えた鉄の柵に囲まれ、貴族の館以外の何物にも見えなかった。邸宅と正面部分の柵の間には充分なスペースが取られ、手入れの行き届いた美しい緑が、絶妙の距離感となって道路との間にゆったりと介在している。スプリンクラーがゆっくりとした四拍子を刻み、いまはなき主人の還りを忠実に待ち続けている気がした。ルーブルでもイングリッシュミュージアムでもオルセーでもそうだが、良い美術館というのはまず建物が美しい。まるで内部の美と風格が建物に染み出したかのように。俺は内部に入るのを惜しむかのように、時計回りに外周を歩いた。エントランスを入り、右側に折れ、チケットを買う。左側に進みオーディオガイドを受け取り、そのまま前方へ。最初の部屋は、当主が年間半年の滞在期間、週に二回ずつパーティを開いたシャトー的ダイニングルームだ。壁一面に作品が並べられている。しかし貴族の城にありがちな、閉鎖的でゲストにとっては全く関心が湧かないご先祖自慢の肖像画の羅列などではなく、各作品ひとつひとつが足を止めさせる磁力を放っていた。思った以上に悪くない、と思いながら次の部屋へと移っていく。三つほど部屋を通過し、別のセクションに繋ぐための廊下に出ると、階段の登り口の辺りに二枚のフェルメールがいた。一段と際だつ存在感。左から右への柔らかな光の流れ。先ほどパークから感じた春風そのままの優しさと時の流れが其処には動画的映像として描き切られていた。離れがたきその場所を離れ、大型のダンスフロアのような場所でも絵画を鑑賞。少し戻って廊下から小部屋とは反対方向に出ると、家の中にこんな素敵な場所があって良いのか、とジェラシーを感じるほどの美しい中庭に出た。磨りガラスのトップライトからはパティシエが甘さを調整したかのような柔らかな光が降り注ぎ、ダンスフロアにもう一枚あるのを含めてフェルメールを三枚も所有した当主の光へのこだわりが此処にも結実していた。俺は四つあるベンチの一つに腰を下ろし、暫くのあいだ噴水の水の音と天井から流れ落ちる光との、二重らせん的うねりの中に心を預け泳がせた。

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その後、中華街にある蟹肉小龍包の名店「ジョーズ上海」の支店を56丁目の5thアベニューと6thアベニューの間に見つけそこで昼食。部屋に帰ってシャワーだけ浴びたら2時からN氏と一緒にメトロポリタンタワーの物件視察。部屋に戻ってトレーディングの講義をN氏に1時間半ほどし、二人でちょっと早めの夕食をコリアンタウンで食べてヤンキースタジアムへ。強烈な睡魔に襲われながら、8回裏まで観戦して帰路へ。グランドセントラルステーションでN氏と別れて部屋に戻って、ほどなくして爆睡。二週間以上続いた昼寝が今日だけなかったことが、ついに俺様に連続7時間睡眠をもたらすこととなった。つうか、あと4日でニューヨークを離れるのに、今更時差が合ってどうすんの、この野郎!!