5th/july/2006 NYC-day3

kemurin012006-07-06


少しずつ調子が出てきている。今日は朝8時に目覚めたものの、雨が本降りだったので午前中は部屋でテレビなどを観たりニューヨーク市場をチェックしたりしてまったり過ごした。昨日ウェブで今日の午後二時から始まるアメリカンバレエシアターのチケットを取っておいたので、雨が降り続けばそれまで家にいて、タクシーに乗って会場であるメトロポリタンオペラに向かえばいいか、と考えていた。それでも12時頃になるとテレビでの天気予報通りに雨は上がり空もずいぶん明るくなってきたので、俺は時間まで街を散歩することにした。目的地は1年半前に住んでいたタイムズスクエア周辺。ここからは北に10ブロック、西に2ブロックだから単純な距離は2キロもなくエクセサイズというには物足りないが、いろいろと歩き回ればそれなりの運動と気分転換になるだろう、と考えた。服を着替えて街に出ると、雨上がりを待っていたのか少なくない人が路上に出ていた。誰もがさっき歩き始めたようなフレッシュな感じ。俺はそのほどよいエネルギーの中を、肩からはバレンチノのバッグを斜めに掛け、足にはモンベルの超軽量シティジョガーを履き、腕を大きく振って力強く5番街を北へ歩いた。暫く歩くと五番街を左右に挟むように大きなパブリックライブラリーが見えてきた。アメリカの殆どの公立図書館は無料のワイヤレスインターネットサービスを館内で提供していて、確かこの大型のパブリックライブラリーはその併設している公園にも電波を飛ばしているんだよな、とか思い出しながら俺はその角を左にターンした。公園の緑が雨の恵みを受けて生命力を拡散させている。俺は多少の恥ずかしさから、その腕の振りが小さくなりかけていたが、その小さな自意識をニヤッと笑い飛ばして腕の振りを回復させた。だれもが元来ストレンジャーなんだし、なにより此処はそういうヤツらが集まった街じゃないか。アベニューオブジアメリカを通過し程なくすると世界で一番有名な街角が見えてきた。広告塔が集結した街角、タイムズスクエア。ダウジョーンズのビルの電光掲示板には「北朝鮮のミサイルに対する脅威と新規雇用者の数字を気にしてダウは100ポイント下げた」というニュースが高速で右から左に流れている。フォーティセカンド・セブンスの街角に立ってぐるっと周りを見渡してみた。何も変わっていない。季節は冬から夏に変わり人の格好も軽くなったし、なにより象徴的なアドバタイズメントだったカップヌードルの広告が無くなった。しかし此処は何も変わっていない。もともと此処には本質的なものなどなにもないのだ。本質の無さこそ此処の本質。ただ「流れ」だけがある。ようやく分かった。どうして俺がこんな意味のない場所が好きなのかを。「流動性」というこの世界の骨格の全てをこの場所は上手く表現している。そして俺はその流動性の中をこれからも歩く。光の中を泳ぐ。流れるように流されるように。そして時がくれば、その一体となった光の中に溶け込んでいくのだ。