★再度シルキーに流れはじめた時間の中で

今日の夜ご飯はまたもや「すし田」だった。鮨ほど頻繁に食べられるものもないし、アパートメントから歩いて2分に旨い鮨屋があるというロケーション的理由も加わって、しょっちゅう行ってしまうのだ。
 
今日は一人だったから、前半はもうほとんど趣味と言っていいヒューマン・ウオッチングに興じた。人間のバックボーンを想像することほど楽しいことはそうそうないし、レストランほどそれに適した場所もない。俺は時々、目の前に置かれているネタがネタとしてここに置かれるまでの奇跡的軌跡に目を細め、また職人達の鮮やかな手さばきに不思議な安らぎを覚えながら、自由自在に彼らの向こう側を眺めた。
 
するとカウンターの隣に一人の知性的な男が座って静かに話しかけてきた。ネットトレードをするときに使うソフトを開発するのが仕事だと言っていたし、その顔立ちからインド系かと思ったのだが、彼の話によればニュージャージー在住のプエルトリコ系のアメリカ人だということだった。
 
俺は基本的に知性のある人間が好きだ。礼儀正しいし、だからといって楽しい話ができる機会をみすみす逃したりもしない。エジプトやパリやバルセロナやベルリンのホテルアドロンのことやアムステルダムコペンハーゲンのことを話し、加えてブディズムに於けるインドと中国の特徴の違い、さらにはそれらとキリスト教の相違点などを少し話した。彼は世界中の都市の話題よりも思想的会話に関心を深く示した。人間行動に於ける選択性と非選択性の同居とか世界の流動性みたいなやや深めのテーマなどについても「あんたの話は凄く良く理解できた」と言っていたから俺の英語も少しずつ上達しているのかも知れない。
 
Eメイルアドレスを交換し握手と共に俺たちは別れた。ひとりで食事をしているとなぜだか良く話しかけられるのだが、今日の相手は悪くなかった。もちろんそういう会話の中にあってもデザートのぜんざいだけは食べ忘れなかった。そんなフランス的食事スタイルを愛する自分が好きだ。