●俺様のNY行動記録 at 3rd/Dec.

今日のメインイベントはやはり先日企画しておいた語学学校のクラスメイトを招待してのホームパーティだったということになるのだろう。しかしこの一日はそれだけの一日だったわけでなく、俺様の大好き且つお得意なブランドショッピングが絡んできたから大変だった。

通常通り10時から13時までは授業時間だ。いつものように、語感をつかむための積極的な質問とそれの1.5倍のジョークを飛ばしながら爆笑の元に三時間を楽しむ。近くのデリでパーティを手伝ってくれる仲の良いクラスメイト達と軽めの打ち合わせをしながらクイックランチを取る。ホームパーティなど別に一人ででも完全に仕切れるが、そこをあえて一部の人に手伝いを求めるのがポイントだ。確かにその方がパーティ本番にも芯というか土台のようなものが生まれるし、手伝いを頼んだ彼らとの間にも信頼感が育つ。こんなことは一般的には当たり前のことかも知れないが、人に頼んだり、そもそも段取りを説明する面倒よりも、自分一人でやりきってしまった方が楽だと子供の頃から考えてきた俺様にとっては、ごく最近までとても難しいことだった。36歳になってようやくこういうことが分かってきたような気がする。手伝いを求めた彼らには、開催時間の30分前である5時半に集まってもらうことにして、2時前に一旦解散する。

問題はここからだ。彼らがやってくるまでまだ時間があると感じた俺様は、部屋に戻らずそのままダイレクトにアッパーイーストのブランド街へとタクシーを走らせる。アッパーイースト・マディソンアベニュー界隈のブランド街は、ミッドタウンの5番街とクランク状に連続しているのだが、ニューヨーク一の高級住宅地という立地上、5番街よりもさらに高級なブティックが集積している。俺様は二日前バーグドルフ・グッドマンで先行セールをやっていたことから、ジョルジオ・アルマーニなどがいつ頃からウインター・セールを始めるか確認したかったのだ。

65丁目、ジョルジオ・アルマーニの前でタクシーを降りる。が、降りたのが道を渡った反対側だったので、まずは目の前にあったジャン・ポール・ゴルチエに入る。さらっと全体に目を通したあと近寄ってきた店員にセールの時期を確認する。三日後からですが、もしお気に入りの物がありましたら今日でもセール価格でやらせてもらいます、との返事。そう聞いては手ぶらで帰るわけにはいかない。まだ手つかずのパウダースノーを前にして、スキーを外して歩いてゲレンデを降りるのは愚の骨頂だ。ほどなく、前がジップアップで、アバンギャルドな織り込みがいかにもゴルチエらしい黒のカーディガンをみつけて即断する。定価780ドルの30%オフ(+タックス8%ちょい、以下同じ)。日本で買うよりかなり安い。

つぎはいよいよアルマーニだ。ゴルチエが三日後からといっていたからこっちでも近いんだろうなと思っていたら、昨日から始まりました、全品40%オフです、とのこと。なんだとこの野郎!!そして、「なんだとこの」と思った瞬間に、今日のパーティのことが頭から飛んでいた。とりあえずちらちらっと見ていたら、今日の俺様の担当者、握手のときの握力が物凄く強い男、ルイスが話しかけてきた。いきなり手が痛い。とりあえず質感が上質で、さわると手がとろけるようなトロウザーズを1本買う。値段を見ずに買ったのだが、あとから確認すると定価が790ドルだったからアルマーニのなかでも少し高い方だと思う。そして今回の狙いの中心、コートを物色する。ルイスは最初、わりとカジュアルな物をいろいろと持ってきたが、その着心地を確かめながら他の物を見ていたら、あった、ありました、これだという物が。肩から胸元に掛けてたっぷりムートンが着いた、ゴージャスな黒のロングコート。これでこそニューヨークだぜ、というような上流なもの。ええ、ええ、わたしはスノッブ丸出しでございます。どきどきしながら値段を聞いたら、定価で3950ドル。安い、安いぜ、この野郎!!日本だったら軽く70万の値札が付いているだろう、こんちくしょうが、オフプライス後、税込みで2500ドルちょいなのだから海外での買い物はやめられない。しかし小金持ちではあっても「無駄遣いをする人間は自分の命を無駄遣いしているのと同じ」と考えている聡明な俺様は、さっきルイスが「この皮のブルゾンだったらハーフプライスにしても良いですよ」と耳打ちしてきたのを思いだし、「このコートも50%オフにならないの、なったら決めるんだけど」と念のため試してみる。まぁ無理だろうな、こっちの方が明らかに人気がありそうだし、と思っていたのだが、予想に反して彼は黙り込んだ。そして8秒間沈黙したあと、いま外出中のマネージャーに相談させてください、わたしの一存ではできかねることなので、しかし、1時間お待ちいただければ恐らくできると思います、いや、やります、と答えてきた。たったの1割といってもそこは395ドルだ。他のブティックで時間を潰そうかな、と思った瞬間に、パーティのことを思い出した。おお、こうしちゃいられない、と来店の約束を明日に取り付け足早に店をあとにする。ロバートの店にも寄らなければならないのだ。

ロバートは以前のエントリーでも触れたがヴァレンチノの俺の永遠の担当で、さらに友人の99.8%ゲイのナイスガイ(ナイスレディ?)。ハイ、ロバート。ハイ、けむりん。と始まり、他の女性店員が俺様のグッチの鞄にめちゃめちゃ興味を示してきたので、持ってみろよ、うわークール、もらっておくわ、ありがとう、などと絡んでいる内に時間は刻々と進んでいく、わ、まずい、と光沢感のあるドレッシー且つこれまたアヴァンギャルドなドレスシャツを一枚もらって帰路につく。今日の戦績を振り返り、満足しながら軽く頷く。悪くない。

クリスマスシーズンを迎え、ニューヨークの街は明らかに人通りが増えてきた。タクシードライバーの交代時間である午後五時と重なって、空車を見つけるのはかなり困難だ。よし、と意を決して歩き始める。頬を切る風の冷たさが、ホームパーティという慣れない文化への挑戦へ向けて気を引き締める。緩やかに、しかし確実に通り過ぎていく景色をこめかみに感じながら、決して後ろは振り向かない。不確実な未来にはいつも不安が付きまとう。それでも俺は、不燃性の時間を燃焼させんが為に、神との対決を心に決めたのだ。