★スポンサーセールとオーナーセールの価格逆転現象に見る米国不動産バブルの危うさ

ところで、昨日N氏とひやかしに行った「The Trump World Tower at United Nations Plaza」において興味深い発見があったので、そのことについて書く。

こういう新築から数年建った物件というのは、投資対象先として購入する割合がかなり多い事を反映して、新築して一年も経たないうちから前オーナーによるリセールが始まる。これをオーナーセールといい、それに対して正真正銘の新築物件、まだ誰も入居していないぴかぴかの物件の販売をスポンサーセールという。オーナーセールでは、もちろん自分のコネクションなども使うのだろうが、新築物件を販売しているオフィスにも委託販売の申し込みをする。だから、俺様のように物件を見に来た客には、それぞれの販売形態を明記した二つのプライスリストが渡されるわけだ。

ひやかしに来た俺にはもちろん、そんな中古物件などに鼻から興味がなく、あっそ、てなもんでろくに目も通さなかったのだが、これから2時間以上もさまざまな物件を、ひどく丁寧かつ上品に案内してくれる事になる女性担当者の「オーナーセールは値引きできないんですが、スポンサーセールは値段の交渉に応じる事ができます」という説明だけは、なんだか彼女の声のトーンに微妙な違いが感じられたので、なんとなく頭に残っていた。そしてN氏に、だいたいどれくらい値引きするものなのか相場を確認したら、3ベッドルーム4646000ドル(5億円弱)の物件で、たぶん35万ドルから40万ドルぐらいだと思う、とのことだったので、これまた、ふーん、そんなもんだろね、てな感じだったのだ。たしか先日パリのサントノーレの画廊で見つけたシャガールの美術館クラスの傑作も、値段を聞いたら880000ドルから三段階値段を落として750000ドルだったから、美術品のように価格に流動性があるものでもそんなもんだから、ニューヨーク最高のコンドミニアムならそんなもんだろな、と思っていたのだ。そうやって漠然とではあるがそれなりに何かに基準を求めながら、あとから恐らく行われるであろう値段の提示を予測していたので、昨日書いたような衝撃的ともいえるような激しいディスカウントには、余計にびっくりしてしまったのだ。

で、ここで当然思い出すのがオーナーセールのこと。基本的に各階各物件ごとに定価が違うので、並列的に比較検討できないのが痛いところだが、同様の物件を比べた場合、スーパーディスカウントの新築物件の値段が、オーナーセールのそれの遙か下を行く。「マンハッタンで自分が買った値段より安くリセールするオーナーは一人もいない、中古になっても一切価値は下がらず、必ず右上がりで上がっていく(と信じられている)から」とN氏が言うから、おいおい、それじゃ金があればサルでも儲かるってことじゃないか、この野郎!!とくに、こんなスーパーディスカウントを買わなきゃサル以下ってことか、この野郎!! と、俺様が口惜しがったかというと、もちろんそんな事はない。マンハッタンの不動産は年平均12%、強いところだと20%の上昇率というが、証券口座の運用利回りが年平均200〜300%の俺様は気にもしない。 というよりもむしろ、そのスポンサーセールとオーナーセールの価格逆転現象にこそ、何時来るとも分からないアメリカ不動産バブルの崩壊と、speculatorとしての自分の立場の確からしさに、静かなる喜びを感じずにはいられないのだ。