MIYAKOのことなんか、誰も知らないくせに

kemurin012007-04-05


4/24放映予定のNHK「プロフェッショナル」に、バレリーナ吉田都が登場する。プロフィールにあるように、また何度もエントリーしてきたように、俺様とそしてワイフの二人は、大のMIYAKOファンだ。

俺たちにとって彼女の記憶は別格中の別格。メモリーボックスの中でも最上級の位置、赤いヴェルベットを敷いた宝石箱に、大切に保管してある。

ここ2年強のパドゥトワの人生に於いて、全幕ものの彼女は6回見た。ロンドンでの5回(「躾の悪い娘」「ジゼル」「火の鳥」「クルミ割り人形」×2)と、東京での1回(「アビアント」)。あと1回神戸でもスモールワークスを見ているが、全幕ものこそ彼女の全てなので敢えて数には含めない。そしてそれらを振り返ると、「アビアント」もとても良かったけれど、やはりロンドンで見たMIYAKO YOSHIDAこそが、彼女の99.99%だと確信している。

まず、衣装とセットに対する金のかかり方が違う。クリスチャン・ディオールの生地を使った衣装や、雪降る夜をドラマチックに再現する舞台装置。これらはバレエという至高の芸術に対する国民の理解度そのものだ。それから、演出力を初めとした舞台を支え作り上げている人たちの哲学と哲学力。これは一言で言うならヨーロッパ。非常にヨーロッパ的色彩を色濃く帯びたもの。そして、コールドバレエを初めとした脇役のレベルの高さ。当たり前の事だが、脇を固める小さなダイヤモンドが自らの役割を充分に果たしてこそ、中心石であるアレキサンドライトはより美しく輝く。

だけど、ロンドンで見なければMIYAKO YOSHIDAを知る事ができないという理由はこれらを越えて別にある。

それは、喝采だ。彼女がいよいよ舞台に登場したときの、溢れる期待に突き動かされたような聴衆の拍手とため息、そして舞台が大団円を迎えたあとのExplosionという形容以外考えられないような爆発的拍手、喝采。日本から遠く6200マイル離れた英国の中心で、一人の日本人があれほどまでに人々を感動させ、浴びるような喝采を受けていたことを、殆どの日本人は未だ知らない。並み居るロイヤルバレエのプリンシパル達を抑えて、エースのアリーナ・コジョカルさえも抑えて、英国評論家協会による「2006年英国最優秀女性ダンサー」に選ばれたということが、彼女がこれまでどれだけ人々を感動させてきたかということの小さな痕跡だ。

MIYAKOの「プロフェッショナル」予告編のキャッチコピーは、よりによって「ニッポンが誇るバレリーナ吉田都」だ。虚言を弄するなと言いたいが、非生産的なのでそんなことはもうどうでも良い。

人生は、瞬間瞬間、取り返しの付かないことの連続。そして、自分の都合の悪い事さえも直視していかなければならないことを、MIYAKOは、本人の自覚とは関係無しに、今も発信し続けている。ただ削りながら美しく踊る事によって。そして、僕たちはこれからも、行けるところまで行こうとする孤高のプリマドンナのその二度とない踊りを、如何なる人間の価値観も介在させることなく、じかに見つめ続けていきたい。