何故か今バンコクのホテルにいる。


今回は自分が来たくて来たわけではなく、ひょんな流れから、実家の取引先というかお客さんのような人たち約10名を旅行慣れした俺様がアユタヤとかバンコク市内を観光案内することになってしまい、その努めを果たすために此処に来たのだ。まぁそんなことはどうでもいい。生まれて初めての団体旅行、生まれて初めてのツアーアテンダントは死ぬほど疲れた。斯くのごときボランティアは二度としないと思う。余りにも疲れ、燃え尽きたので、ドンムアン国際空港までは行ったものの、帰りの便を俺様だけキャンセルして数日間ゆっくりすることにしたのだ。それが三日前。


それからの三日間、俺様は完全に1人だった。それまでの数日間の人々との関係は全て失われ、俺様は此処バンコクで、誰様でもなかった。そのことが、ソンブーン・シーフードレストランで新鮮なエビをうまいうまいと食ってる時に、急に感じられた。ニューヨークやローマやパリなど、今まで滞在した多くの場所のそこかしこに、割と親しい人たちがいる。しかし確定的な俺様などどこにもいない。


いや、こんなことはもうずいぶん前に突然に気付いていたことで、目新しさなど欠片もない。しかし日本に長く滞在すると曖昧なムードが貼り付いてしまって、こういうダイレクトな感じがいつの間にか失われてしまう。


俺はこの欠落めいた感覚が好きだ。この感覚に包まれ、それを受け入れているときだけ、俺様を包む世界の運行にオンタイムで接続されている気がするからだ。