★液体的な鏡の中の日常★


四ヶ月に渡ったニューヨークからの出発も四日後に迫った。相変わらず特に変わらぬペースの毎日を送っている。昨日は「寿司田」で32回目の鮨を食べた後、18回目のニューヨークシティバレエを見に行った。何も変わらぬ日常だが、ただそれらが今回の滞在で最後の鮨であり最後のバレエというだけだ。いつも握って貰っていた「寿司田」の店長にはいよいよこれで最後になる旨を伝え、心からの感謝を伝えた。此処の鮨が有ったから僕の四ヶ月のニューヨークはより幸せでした、と端から聞くと大げさに聞こえるだろうけど、いつものように素直に言った。


昨日のバレエもお気に入りの42ドルの席(4階席の最前列)で見たかったのだが、数日前にぎりぎりでチケットを取ったため30ドルの一番安い席(4階席の中段以降)しか残っていなかった。しかしそれでも充分楽しめた。俺様は冬のシーズンが始まってからの2ヶ月間、テレビを見るようにバレエを観劇してきた。


静謐な日常の流麗。


昨日は語学学校の友人達8人と昼食を取った。フランス語を話すキュートなメキシコ人アナといつものようにパリスタイルで挨拶のキスを交わしたあと席に着き、まだ誘っていなかったスイス人のセディを今日のパーティに誘い、全員と軽く打ち合わせをした。日本人の女の子が「私からの話を聞いてあなたにずっと会いたいと言っていた彼氏を今回連れて行っても良い?最後の機会だから」と目を細めながら聞いてきたので、「けっ、別に俺の方はそんなヤツに会いたくねぇよ」と思いながら「またひとつ見たくもない現実に俺を直面させるのか。でも最後だし、嫌だけど良いよ」と笑っておいた。その後スペイン人のキケと心理学の話を少ししていたのだけど、アナが地元の女友達の写真を持ってきていたのであっという間に「おいおいキケ、どの子が一番タイプか決めようぜ」「ちょっと待ってくれ、待てって、心理学的に言うと、いや、そんなことはどうでも良い、つうか、こんな難解なクエスチョンにはバルセロナ修士課程でも出会ったことがないぜ、だから待てって、右から2番目だな、なにっ?アナの妹だって?よし、分かった、俺は英語を習得したらコロンビアで研究を続けたいと思ってたけど、決めたぞ、もう決めたぞ、俺はメキシコの大学にいく!」などとアカデミズムはいとも簡単に退廃を見せる。


性必な日常の流麗。


とか何とか言ってるうちに、1時間半の時は下流に下り、翌日の再会を約束して店の扉を開けて街の騒音と風の中に睫毛を流す。アナが「また明日。明日はメキシコで買ってきたテキーラを持って行くわ、サウザなんかよりもずっと美味しいのよ」と笑顔を見せる。続けて「タクシーよね。私たちは地下鉄で帰るから、じゃあ此処でね」という言葉に、うんと頷く。家まで20ブロック。俺は何故だか、日常に倣わず、歩いて家まで帰った。いつものように、いつものように、生きてきた。そのニューヨークの日常を横断するかのように、ゆっくりと、異邦人のように歩いた。