★Snowflakes memories★


昨日の夜、ニューヨークでは久しぶりに雪が降った。といっても、1ヶ月前に降った「数年振りの」といったような大雪とは違い、今回のは歩道をうっすらとシェイビングブラシで撫でた程度のものだ。その雪の降り方の移り変わりを見ても、冬の深さが次第に浅くなっていることを感じることができる。ほとんど後ろを振り向かない俺様であっても、あれからひと月経ったのだということをふわりと感じたりする。


今回のニューヨーク滞在も、あと八日間を残すのみになった。昨日そんなことをぼーっと考えていてふと気付いたのだが、日一日と残された時間が短くなっていっても、一切の焦りがないのだ。それはとても不思議な感じがした。


残された時間が少なくなったときにも焦らないというのは、昔からの俺様の理想であり憧れだった。30歳くらいまでは何時も、取り返しの付かないときになって、あれもこれもやっておくべきだったと後悔し、できることならばもう一度やり直したいという焦りを感じていた。昨日ふと気付いた以前の自分との差異に、小さな驚きを感じた。


もちろん、離れゆく人たちのことがあるから、心寂しさは少なからず感じている。特に今回の滞在で築いた彼ら一人一人との関係は、当初予想だにしていなかったほど良好なものになったからなおさらだ。個人としての付き合いができた。ただ、だからといってもっと此処にいたいとも思わない。世界は広く、行くべき所はまだ山ほどある。俺はおそらく、通常なら感じるであろうセンチメンタリズムを感じることのないような日々を、通常なら何時までも思い出すであろう想い出を思い出すことのないような日々を、ニューヨークの後に送るだろう。


このままなら、もしかしたら突然訪れる死の間際になっても、焦らずに済むかも知れない。もしそうであったら良いなと思う。そんなことをかすかに思いながら、僕はこれから、いつもの夕方そうするように、バレエのDVDを観るのだ。